No.38新着 日本の女性騎手の歩み 戦前の斉藤澄子から、1996年のJRA初の3人、藤田菜七子、今村聖奈のオークス制覇まで
JRA初の女性騎手は1996年デビューの細江純子・牧原由貴子・田村真来の3人。2013年から女性騎手がいない時期を経て、2016年に藤田菜七子騎手がデビューし、2019年には女性騎手の負担重量を軽くする制度ができた。2026年5月、今村聖奈騎手がオークスに勝ち、JRA所属の日本の女性騎手として初めてG1を制した。
本文と出典
【戦前:レースに出られなかった最初の女性騎手】
日本の女性騎手の話は、戦前の斉藤澄子さんから始まります。1913年に岩手県の厨川村(いまの盛岡市)の農家に生まれ、男性しか騎手になれなかった時代に、女性であることを隠して騎手を目指しました。一度もレースに出ないまま、29歳で亡くなっています(PRESIDENT Online、2023年5月31日。歴史小説家・黒澤はゆま氏の著書からの抜粋)。
Wikipedia によると、斉藤さんは1936年3月に京都競馬倶楽部の騎手試験に合格しましたが、「風紀上問題がある」として国などから出場を禁じられました。翌1937年に日本競馬会ができると、騎手は「男子」に限るという決まりができ、免許を失ったとされています。この試験と規則のくだりは、一次資料では確かめられていません。
(出典:PRESIDENT Online https://president.jp/articles/-/69980 、Wikipedia「斉藤澄子」 https://ja.wikipedia.org/wiki/斉藤澄子 )
【地方競馬のさきがけ:名古屋の宮下瞳さん】
JRA より一足早く、地方競馬では1995年10月22日に宮下瞳さんが名古屋競馬場でデビューしました。結婚と出産で一度は騎手を離れ、のちに復帰しています。内閣府は2019年度の「女性のチャレンジ賞」で、子育てをしながら女性騎手の最多勝記録を更新した人として宮下さんを表彰しました。
宮下さんは2025年11月に騎手を引退し、調教師(馬をあずかって育てる人)になりました。通算の勝ち星は1,382勝で、国内の女性騎手で最も多い数です。2026年2月には、地方競馬の年間表彰「NARグランプリ2025」で特別賞を受けました。
(出典:内閣府男女共同参画局「令和元年度女性のチャレンジ賞受賞者名簿」 https://www.gender.go.jp/public/commendation/women_challenge/pdf/katudoug-r01.pdf 、デイリースポーツ 2026年2月24日 https://www.daily.co.jp/umaya/news/2026/02/24/0020057621.shtml )
【1996年:JRA初の女性騎手3人】
JRA で最初の女性騎手は、1996年にデビューした細江純子、牧原由貴子(いまは増沢由貴子)、田村真来の3人です。JRA 競馬学校の騎手課程12期生で、同じ期には福永祐一さんや和田竜二さんがいました。
牧原さんは1年目に9勝しましたが、けがなどで勝ち星を伸ばせず、2013年まで続けて JRA 通算34勝で引退しました。細江さんは2000年にシンガポールで勝ち、日本の女性騎手で初めて海外で勝った人になりました。引退後は競馬の解説者として、テレビや新聞で仕事をしています。
その後、1997年に板倉真由子さんと押田純子さん、2000年に6人目として西原玲奈さんがデビューしました。JRA の公式データサービス JRA-VAN の記事は、けがなどで乗る機会が減り、目立った成績を残せずに引退した人が多かったと書いています。
(出典:JRA-VAN「女性騎手も活躍できる時代に」 https://jra-van.jp/fun/baken/index22.html 、JRA「細江純子」プロフィール https://www.jra.go.jp/sgs/index4_4.html )
【空白の時期と、2016年の藤田菜七子騎手】
2000年の西原さんのあと、JRA の女性騎手のデビューは16年間ありませんでした。2013年9月に増沢さんが引退してからは、競馬学校を出た女性騎手が一人もいない時期が続きました(集英社スポルティーバ、2016年2月)。
2016年3月5日、藤田菜七子騎手が美浦の根本康広厩舎の所属でデビューしました。4月10日に福島で初めて勝っています。そのあとの主な記録は次のとおりです。
・2019年2月:フェブラリーステークスで、JRA 所属の女性騎手として初めてG1に乗る(5着)
・2019年:新潟競馬場の年間の勝利数で1位
・2019年:カペラステークスに勝ち、日本の女性騎手で初めて JRA の重賞(格の高いレース)に勝つ
・2020年4月26日:女性騎手で初めて JRA 通算100勝
2024年10月11日、藤田騎手は JRA に引退届を出しました。調整ルーム(レース前に騎手が泊まる施設)に通信機器を持ち込んでいた件で騎乗停止の処分が発表された後のことでした。JRA の通算勝利は166勝(2024年10月10日時点)です。
(出典:集英社スポルティーバ 2016年2月14日 https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/keiba/keiba/2016/02/14/jra/ 、デイリースポーツ 2024年10月11日 https://www.daily.co.jp/umaya/news/2024/10/11/0018216099.shtml )
【2019年:女性騎手の負担重量を軽くする制度】
競馬では、馬が背負う重さ(負担重量)が決まっています。騎手と鞍を合わせた重さで、軽いほど馬は走りやすくなります。経験の浅い騎手にはもともと重さを軽くする特典(減量)があり、JRA は2019年3月1日から、女性騎手の減量を厚くしました。デイリースポーツによると、それまで1キロ減だった藤田騎手は、この制度で一般のレース(平場)では3キロ減になりました。
いまの JRA の決まりでは、特別競走とハンデキャップ競走(強さに合わせて重さを変えるレース)を除くレースで、女性騎手は次のように軽くなります。
・★印:平地で50勝以下の見習騎手は4キロ減
・▲印:51〜100勝の見習騎手は3キロ減
・◇印:見習いの期間を過ぎた女性騎手は2キロ減
男性の見習騎手は、30勝以下が3キロ減(▲)、31〜50勝が2キロ減(△)、51〜100勝が1キロ減(☆)で、見習いを過ぎるとなくなります。女性騎手の2キロ減は、見習いを過ぎても続くところが違います。
(出典:JRA 競馬用語辞典「減量制度」 https://www.jra.go.jp/kouza/yougo/w574.html 、デイリースポーツ 2019年2月25日 https://www.daily.co.jp/horse/2019/02/25/0012094386.shtml )
【2021年から:女性騎手が増える】
2021年2月9日、古川奈穂騎手と永島まなみ騎手が騎手免許の試験に合格しました。女性が2人そろって合格したのは、藤田騎手以来5年ぶりです。同じ年の4月17日、新潟の第7レースでは1着が古川騎手、2着が藤田騎手、3着が永島騎手となり、JRA の女性騎手が上位3着までを占めるはじめてのレースになりました。
2022年3月5日には今村聖奈騎手が栗東の寺島良厩舎の所属でデビューし、7月のCBC賞で初めて重賞に勝ちました。この年は JRA で51勝し、女性騎手の年間最多勝の記録をつくり、JRA 賞の最多勝利新人騎手に選ばれています。
永島騎手は2024年6月16日のマーメイドステークスにアリスヴェリテで勝ち、初めて重賞を取りました。2024年2月には大江原比呂騎手が合格し、女性の合格は4年続きました。デイリースポーツは大江原騎手を「現役7人目の女性騎手」と書いています。
(出典:デイリースポーツ 2021年2月10日 https://www.daily.co.jp/horse/2021/02/10/0014068366.shtml 、同 2023年1月30日 https://www.daily.co.jp/horse/2023/01/30/0016007664.shtml 、同 2024年2月6日 https://www.daily.co.jp/umaya/news/2024/02/06/0017302596.shtml 、JRA「2024年マーメイドステークス」 https://www.jra.go.jp/datafile/seiseki/replay/2024/056.html 、JRA-VAN 前掲、集英社スポルティーバ 2022年9月9日 https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/keiba/keiba/2022/09/09/post_193/ )
【2026年:今村聖奈騎手のオークス制覇】
2026年5月24日、東京競馬場のオークス(3歳の牝馬のG1)で、今村騎手が5番人気のジュウリョクピエロに乗って勝ちました。デビュー5年目で、女性騎手として初めてのクラシック(3歳馬の伝統の大レース)への騎乗でした。JRA 所属の日本の女性騎手が G1 に勝ったのは初めてです。
女性騎手による JRA の G1 勝利は、障害レースを含めて3人目です。先の2人は外国の騎手で、2002年に中山大障害を勝ったニュージーランドのロシェル・ロケット騎手と、2025年のフェブラリーステークスを勝った英国のレイチェル・キング騎手です。今村騎手は2025年10月に JRA 通算100勝に届き、2026年7月5日の時点で通算113勝です。永島騎手は2026年8月23日の時点で JRA 通算137勝です。
(出典:デイリースポーツ 2026年5月25日 https://www.daily.co.jp/umaya/news/2026/05/25/0020394965.shtml 、同 2026年7月5日 https://www.daily.co.jp/umaya/news/2026/07/05/0020554201.shtml 、同 2026年8月23日 https://www.daily.co.jp/umaya/news/2026/08/23/0020738673.shtml 、集英社スポルティーバ 前掲)
【海外とくらべると】
日本より先に、フランスが2017年3月に女性騎手の2キロ減を始め、女性騎手の騎乗数は倍以上、勝利数は約3倍に増えました。2018年3月に1.5キロ減へ小さくしたあとも、騎乗の依頼は増え続けたと報じられています。フランスでは騎手の約6分の1が女性です(デイリースポーツ、2019年2月)。
米国では、ジュリー・クローン騎手が通算3,704勝(うち重賞132勝)を挙げ、ベルモントステークスなどのG1に勝っています(JRA-VAN)。日本では、宮下瞳さんの1,382勝は地方競馬での数で、藤田騎手の JRA 通算は引退時に166勝でした。
(出典:デイリースポーツ 2019年2月25日、JRA-VAN 前掲)